『貴方が謝ることはありませんよ。賑やかになるのは大歓迎です。もちろん、高野家に入るからには、甘やかしたりはしませんけれどね』


そうね。
その言葉どおり、母様はそりゃあ厳しかったけれども。
でも、突然できた娘を愛情深く大切に育ててくれた。どんなに感謝してもしきれない。


『近くに一彰もいますからね。気が合うのではないかしら。貴方もあまり深く考えずに、こうなってしまった以上、状況を楽しんでみたらいかが? だって、他に手立てはないのですもの』

『そうできたら、よいのですが。生憎、そう器用な方ではなくて』


母様の提案に苦笑して、首を振る。
母様の言うことはそのとおりだが、気持ちがそう簡単に追いつくはずもない。
兄様――恭一郎様の性格なら、本人の言うとおり尚更だ。


『子供のうちからそれでは、先が思いやられますよ。貴方たち二人が成長する頃には、一体どうなることやら』


それももっともだが、やはりどうすることもできないと笑う。
夢の中の恭一郎様はまだ幼く、しかし、とても大人びている。
その困った顔も、誰もがそれ以上追及できなくなるような笑顔も。
今とそう変わらず、やはり私の知る彼そのものだった。


『……ええ、本当に。この先どうなるやら、恐ろしいと……私も思います』


どこか遠くを見ていた瞳が、ふと逸れる。


『あっ、こら。……まったく、小雪ったら。あれで、貴方のことを大好きだそうですがね』


脱兎のように逃げる少女を追うこともせず、駆けた先をぼんやりと眺めて言った。


『……いっそ、嫌いになってくれたら楽だったのに。あまり、いい未来が見えない』

『……恭一郎殿。すべて上手くいく未来だって、用意されているものです。きっと、大丈夫』

『……はい』


この時彼の目に見えた未来は、今と同じだろうか、それとも――より、酷いのだろうか。