明日、雪うさぎが泣いたら



「まあ、いいだろう。私の邸内だしな。私の不在を狙っても、すぐにバレる」

「……本気で仰ってます? 一彰を誰より信用しているのは、恭一郎様のくせに」


長閑がついてくることも、私の出す条件も分かっていたはずだ。
それなのに、思ってもいないことを言う唇も、それに乗せられた指も芝居がかっていて噛みつかずにはいられない。


「ああ、信用している。そうでなければ、いくらお前に頼まれても許すものか。あいつだから悩むのだ。他の男なら、断る他に選択肢がない」


(だーかーらー!! )


私じゃなく、奴は長閑を想って足を運んでいるのだと言うのに。
何度言えば、分かってもらえるのだろうか。
他の女性のもとに通う許可など、本来必要のないもの。
一彰は長閑に会いに来る道中、私の顔を拝む羽目になるだけだ。
私が言うのも何だけれど、それではあんまり不憫すぎる。


「ことお前に関しては、私は気が触れている。一彰も分かっているさ。あまり理解していないのは、当のお前だけだ」


さらりと自分は狂っているのだから仕方ないと言われてしまうと、それ以上の文句が出てこない。


「……はあ」


せめて、精一杯間抜けな声を出してみる。
だって、その通りだ。
一彰は恭一郎様の性格を熟知しているし、私への想いも気づいていた。
何も理解していなかったのは、言われたとおり私一人だ。

こうして向き合って、ただ見上げるのではなくその瞳を見つめてみれば。
本当にそうだなと、思うほかなかった。