「まったく、お前は。警戒していたのではないのか? また、そんなふうに気を抜いて」
そう言われても。
一緒に雪うさぎを作ってくれた恭一郎様は優しかったし、雪狐と言い合う様子は私の知る兄様に近い。
兄様でいた部分が全て偽物だったとは、どうしても思えないのだ。
「そんな間の抜けた顔をしていると、後悔するぞ」
頬とも唇の端とも言えるような、そのどちらでもないような微妙な肌に、今度はしっかりと触れる。
少し距離が縮まった気がして、咄嗟に目を閉じた。
だって、そもそも近くに彼は立っていたのだ。
その差がほんのちょっとでも、あまりに違いすぎる。
「ん……一応、頬を染めるくらいはしてくれるのか。今日のところは、その赤さに免じて許してやる」
そう言いながらも、その指は離れない。
それどころか、余程真っ赤になっているのに清々したのか、これまでの恨みを晴らすと言わんばかりにぷにぷにと楽しんでいる。
「本当に許してます……!? 」
「お前こそ、多少は目を瞑れ。私のお前に対する愛情は深い。その分、憎らしいことも多すぎる」
いや、まだ気が済むものかと平然と言い、もうしばらく続けた後、ようやく解放してくれた。
「さて、話を戻すが」
今まで突っついたり摘まんだりしていた頬を、離したと同時にそっと撫でた。
全く痛くはなかったから、赤くもなっていないだろうに、少しだけ心配そうに。



