「小雪。せめて、嘘を吐くくらいしてみせてくれ」
「嘘だって知っているなら、吐く意味ないと思うの」
げんなりしている兄様を見ると、申し訳ない気持ちにはなる。
あの日――皆の言う神隠しにあっていた私が発見された日、私は酷い高熱を出し、うなされていたらしい。
兄様が心配してくれるのも嬉しいし、仕方のないことなのだけれど。
「高名な医師殿も形無しだな、恭一郎殿」
「茶化すな。家の功績と、他に比べたらまだましな知識があっただけのことだ。どこも人手不足だからな。ともかく」
一彰と同じようなことを言い、もう一度私を見遣る。
今度は照れたりなどせず、念を押すようにしっかりと私を見据えて言った。
「だめなものはだめだ。言うことを聞かないと、けして行かないと約束するまで、お前はずっと物忌みということにするぞ」
「……兄様、知ってる?それって監禁って言うんじゃないかしら」
随分乱暴な対処法だ。
でも、今は冗談半分だとしても、いずれはそうは言っていられなくなるかも。
「知っていたか?忌みなどそんなものだ。行きたくないとか、したくないとか……誰かを自分のもとに閉じ込めておきたいとかな。私がそうしないと、どうして言い切れる?」



