「柏木涼です」


自己紹介とともに、おしぼりを手渡す。


彼女はありがとう、とシルバーの爪が光る細い指で、それを受け取った。


「いつものを」


かしこまりましたとマスターが応え、程なくしてコースターの上に置かれたのは、薄い赤のスプモーニ。



タンブラーを赤い口元まで持っていくその仕草が洗練されすぎていて、現実のものとは思えない。


まるで映画のワンシーンを見ているような感覚で、思わず見入ってしまった。


ぼうっと彼女を見ていた男が、俺のほかにもう一人。


カウンターの端に座る、三つ揃えの男性。