「新しい人だね」


彼女の隣に座った常連の男性は、一連のやり取りがなかったような顔で声をかけてきた。


「は、はい。柏木涼です。どうぞお見知りおきを」


「俺は石垣トオル。一応常連かな? よろしく」


マスターに『いつものを』と頼む石垣さんは、俺とそれほど年が変わらないのにひどく大人に見えた。


「おまたせしました。ヴェスパーです」


マスターがちろりと視線をよこして『覚えておきなさい』と無言の指導。


常連客の『いつもの』を覚えるのもバーテンダーの仕事だ。


しっかりと脳内にメモをした。