かくれんぼをしていた。見つからないように森の奥へと入った。
夏草が足で何度も踏まれたかのようにして道となっていた。
すると洞窟らしき穴がぽっかり開いていた。眺めると奥は真っ暗で何もみえない。
洞窟の前には鳥居と小さな祠があった。その祠には日本人形と何かの石がお供えされていた。
僕は気になって洞窟の奥へと進んだ。岩壁には等間隔でろうそくの明かりが灯されていた。
そして、洞窟の奥で彼女と出会った。

「君は誰?」

大人の女性だった。艶やかな黒髪で地面に着くほど長い。服装は着物を着ていた。まるで、祠に備えられていた日本人形みたいだった。

「私の名はかぐやというの」

「竹の中にいたおとぎ話と同じ名前だね」

僕は少し興奮気味にして息が荒くなった。

「なんで鉄格子で囲まれてるの?」

鉄格子によって彼女は外に出られないようにされていた。まるで檻だった。
その鉄の柱にはお札が無数に貼られていた。
そして南京錠が一つと何重もの鎖が鉄格子に巻き付けられていた。

「寵愛を受けてるのよ」

ろうそくの灯が風にゆれ、薄闇の中、ちらちらと彼女の体が見えた。
岩壁を背に足を伸ばして座っていた。ぐったりしている。
彼女の手足には鎖で縛られていた。長い間、縛られていたからだろうか、皮膚が赤身を帯びてかぶれていた。

「ちょうあいって何?」

「そうね、あなたと会えるのがこれで最初で最後になるということかしら」

「そんなの嫌だよ。せっかく、お友達になりたいのに。そうだ、そこから出してあげる!」

「ダメよ!そんなことをしたら、あなたは穢れてしまう。人ではなくなるわよ」

「大丈夫だよ。僕は彦星だから!」

「えっ」

「君の願いを叶えてあげる」

「私の願い……私は」

南京錠のカギが次々と粉々になってゆく。
彼女を縛っていた鎖もみるみるうちに溶けてなくなった。

「外の世界を見たい!」

僕とがぐやはすぐその場を立ち去った。
僕が生まれた村にはかぐや姫の伝承が今もなお残されていた。
かぐや姫とは日本の竹取物語に登場する主人公だ。
俺は知っている。かぐや姫が実在するということを。
かぐやの血を飲めばひとたび不老不死の力を得られると噂にされ、
また、かぐやが流す涙は宝石に変わり、莫大な富を得られるともまことしやかにささやかれた。
大企業や政財界が彼女を狙っていた。彼女は僕が生まれた村で身を隠していた。
かぐやはこの村ではほとんど軟禁より過酷な扱いを受けていた。
幼い頃、僕はその意味がよくわからなかった。ただ、檻に入れられた可哀そうな人だと思い彼女を助けた。
そして、かぐやが逃げたことにより俺は村から追放された。

星野晴彦は彦星の血を受け継ぐ。
人の願いを叶えることができる力を持つ。

逃げたかぐやはどこにいるかというと、すぅすぅと俺の隣で寝息を立てていた。
あの時から十年の歳月が流れた。