「ユ、ユウ……?」
名前を呼ばれることが、こんなにも幸せなことだなんて知らなかった。
アヤメだけだ。
あの頃からアヤメだけが、俺の心を満たしてくれる。
「その指輪なら、あのとき渡したオモチャよりは随分マシかな?」
あのときのことを、今でもアヤメが覚えているかはわからないけれど。
それでも俺の言葉を聞いたアヤメが、今にも目から零れ落ちそうな涙を堪える姿を見たら、聞かなくても答えはわかった。
ああ、どうして。
そんな顔をされたら、期待せずにはいられない。
長く艶のある黒髪も、桜色の唇も、雪のように白い肌もあの頃から少しも変わってなんかいない。
頼りなく下がった眉と、本当は泣き虫のくせに意地っ張りなところも、あの頃からちっとも変わっていなかった。
本当は、この十五年、何度もアヤメのことを探そうとした。
俳優になったのだって、本当は有名になればアヤメの目に留まるかもしれないと思ったからだ。
偶然、俺がテレビに映っているところを見たアヤメが、俺のことを忘れずにいてくれたらいいと思った。
アヤメの心に、少しでも俺という存在を残してほしかったんだ。
なんて、こんなことを言ったら、今度こそ愛想を尽かされてしまうだろう。



