愛を語るには、一生かけても足りなくて。

 


「……たくさんあって、どれがいいかわからないな」

「ご予算などはございますでしょうか?」

「予算……は、まぁ、とりあえずいくらでも構わないけど」


 さらりと断言するなんて、彼は外見だけでなく中身まで男前なのかもしれない。

 なんて不躾なことを考えながら、私は改めて悩む男性客を見て微笑んだ。


「わかりました。でしたら、お相手の方が普段、どういったデザインのアクセサリーや服装をお好みになられるか教えていただけますでしょうか?」


 販売員である私にできることは、お客様の幸せのお手伝いをすることだ。

 けれど、私の問いに彼はマスク越しに口元に手を当て考え込む仕草を見せると、「うーん」と唸ってから何故かチラリと私の顔色を窺った。


「お客様?」

「……アクセサリーや服装は、多分、以前と変わっていなければ、あんまり派手なものじゃなくってシンプルなデザインのものが好きだと思う」


 以前と変わっていなければ?

 彼の答えに私は引っ掛かりを感じたものの、照れもあって曖昧な表現をしているのかもしれないと考え、素直に彼の答えを受け取ることにした。


「そうしましたら、こちらの、Luna・bloom(ルーナ・ブルーム)シリーズはいかがでしょうか」

「ルーナ・ブルーム?」

「はい。こちらのシリーズはクリスマス限定ジュエリーの中でも比較的シンプルで、上品なデザインのものを取り揃えさせていただいております」


 ショーケースの右側に並べられた商品をオススメすれば、男性客はまた興味深そうにそれらを眺めた。

 気がつけば時計の針は二十時をまわっている。

 でもこの男性客が帰るまでは、お店を閉めることはできないから仕方ない。