これを愛というのなら

私の知らない陽介さんが、過去に愛した瑠美という名前らしい、女性の話。

陽介さんは、私から目を逸らすことなく話してくれた。


「瑠美とは、瑠美が留学する前に別れた。待ってるって俺は言ったんだが、私が無理って言われてな」


陽介さんが、そう言った時。

何も言わず、見守っていてくれた料理長が、


ちょっといいか?と眉間に皺をよせて、
陽介さんに視線を向けた。


やっぱり、こんな時でも発動してしまうらしい私の勘。


もしかして???


チラッと、料理長の空いたグラスにお茶を注いでいた、梓を見ると、

私は大丈夫って言ってるように頷いた。


たぶん、昨日、聞いてるんだね。



「俺と瑠美は、留学先で偶然会って付き合ってた。陽介には黙ってて…すまなかった」


ほら、やっぱり。

料理長の顔を、留学って言葉を陽介さんが言ったときに。

チラッと、料理長を見たら、ちょっとだけ、瞳が揺らいだ気がしたんだよね。



「謝らなくていい。瑠美から聞いてた」




コーナーソファーで、自分の隣に座って、驚いた顔をしている料理長の肩を叩いた。


まるで、お前は悪くない、と言っているような瞳を料理長に向けて。



そして、ここからはドラマのような話で。




留学先から帰って来た瑠美は、また付き合いたいと言ってきて。

俺は受け入れた。

その時に、留学先で長谷川くんと付き合ってた、と聞いた。

久しぶりに会って、寂しかったから長谷川くんの優しさに甘えたってな。

別に何とも思わなかったよ。

蓮の優しさに触れたならって、納得したから。

それから、ずっと瑠美と付き合ってて。

このまま結婚するつもりでいたんだが、

瑠美の実家はアパレル会社で、しかも一人娘の瑠美は養子を貰って、会社を継いでもらわなければいけないと。

俺には、それが出来なかった。

今の仕事が好きだったから。

その事が原因で、瑠美とは別れた。






ここまで聞いて、陽介さんが瑠美さんを本当に愛してたんだって思った反面、


なんて女だっ!と怒りも沸いた。


それは、口に出してはいけないと言わなかった。


だって、今、私が愛する人が過去に愛した女性でしょ?


言いたいこと、たくさんあるけれど。

それは全て、誹謗することだから言えないじゃない。


梓から聞いたなら、口にしてたかもしれないけれど。