あれから数時間しか経っていないのに、また現れた私を。




「お疲れ。大丈夫か?」




怪訝そうな顔もせずに、この男は受け入れてくれる。




大丈夫、それよりさ。




「鈴木に集中力、切らされた…」




「どういう意味だ?」




事情を説明すると、腹を抱えて笑い、ご愁傷さま、と。




他人事だと思って、それだけか。




別に、大変だな、とか労りの言葉が欲しいわけじゃなかった。



だけど、笑うことはないだろう。






「笑いすぎ」




背中をバシッと叩くと、イテッと下から私を睨みながらも、優しい瞳は変わらない。






「なにか飲むか?」




「なにがある?」




「なんでもいい、作ってやる」




「なら、賄いで出してくれたスープ」




了解、と冷蔵庫からそれを出して温めてくれている。




ついこの前まで、披露宴で出していたビシソワーズ。





スープカップではなく、マグカップにだけど淹れてくれて。




啜るように口をつけると、美味しい、と自然と笑みが溢れた。




「これってさ、冷たくても美味しいよね?」




「ああ、賄いの時は梓の以外は冷製にしたんだよ」




「冷えるから?」




「冷やしたらダメだろ?」




まあ、と答えたけれど…いつから私があの日だって気付いていたのか…



訊いてみると、





「朝、ロッカーで会った時から。お腹を擦りながら、真っ青な顔をしてりゃ気付くだろ」





いやいや、気づいたのは蓮くらいだよ。




よく見てるね。




なんては言えずに、スープと一緒に呑み込んで。




ありがとう、お礼を言った。





「礼なんていいよ。梓が元気になってくれるならそれでいい」






ほんのり顔が熱くなったのは気のせいだろうか。




この男の然り気無い、優しさと気配りに。