これを愛というのなら

こういう時の蓮に大丈夫、なんて訊くのは強がるだけだってわかってる。


「蓮……お疲れさま」


ソファーに項垂れるように座った蓮は、ネクタイを外して私に渡すと、


今日はいつもより疲れた……めんどくさい奴だった……と。


蓮が苦戦する相手、相当に手強かったんだろうな。


「サインは貰えたんでしょ?」


「当たり前だろ。こっちの提示した条件とは別の条件も呑まされたけどな」


えっ……?


「心配するな。無茶苦茶な条件じゃない。俺がほしいって言われただけだ」


「どういうこと?」


蓮が言うには、、、

新しい事業としてレストランを手掛ける。そこのシェフとして働かないか?

という条件だったらしい。

その条件は決して悪い条件ではないけれど……蓮の負担が大きくなる。

リュミエールに居た時より比べ物にならないくらい。

敢えて口には出さずに、蓮を見つめると。


「そんな不安そうな顔するな。俺が一人では決められない事、この件が解決するまでは店から離れる事は出来ないって伝えて、返事は待ってもらうって言ってたきた」


「蓮はどうするの?引き受けるの?」


「引き受けない。じいちゃんの代から続く店を蔑ろには出来ないし、したくない。それ以上に……俺が引き受ければ梓への負担も大きくなる。一緒に居る時間も格段に減る。俺は……梓の辛い顔や淋しい顔を見る事が……何よりも堪える」


梓には笑顔で俺の隣に立っていてほしい。


蓮は……どこまでも優しい。

こんな時でも、私の心を守ってくれてる。

神経を削って疲れている蓮の前で、丸く治まるまで泣かないって決めたのに……


「泣くなよ……」


涙が溢れ出して………


どうしようもなく惚れた女の心を守らなくて、誰の心を守るんだよ。

その言葉で………決壊する。


「……泣き虫……」


隣に座る私の、涙に手を伸ばすけれど拭い切れない量の滴に笑った蓮は、抱きしめてくれて。


「好きなだけ……泣いていいよ」


優しい、蓮の低い声が耳を擽る。

スーツを着る時しか着けない香水の匂いが鼻を掠める。

普段とは違う蓮の匂いだけど、この腕の中は安心する。

スーツのジャケットに染みを作っちゃう、と脳裏に過るけれど涙は止まらず、
背中を擦ってくれる蓮の手が更に涙を流させる。



漸く、泣き止んだ私に蓮は有り合わせで、ご飯を作ってくれた。