これを愛というのなら

蓮は次の日から、アポを取って会社を回っている。


流石だと思うのは、今日まで話に行った会社が全てーーーこっち側が作った契約を白紙に戻すサインをしてくれた事。


昨日、蓮から聴いたんだけどーーこの紙も小野くんが用意したらしい。

“KOBAYASHI”側に纏めて、持って行って諦めさせるために。

会社側からサインひとつで契約解除を引き受けて、“KOBAYASHI”側に解除の理由を問い質される負担を減らすために。

会社側からすれば、有難い話。





「大丈夫なの?」


お姉さんも、いつもネクタイを緩めながら店に戻って来る蓮を、心配している。

相当な神経を磨り減らしているのは、一目瞭然だ。


「二人になったら甘えてくるから……大丈夫。蓮は……本当に大丈夫じゃない時は甘えてこないから」


「梓ちゃんに甘えて充電してるのね」


「そうかも。だから今は……蓮に余計な負担や心配はかけたくなくて…」


「蓮の分も、今は店を守らないとね。それでなんだけど、ランチだけじゃなくて、ディナーもお父さんと私に任せてくれないかな?」


ずっと蓮に言えなくて、言えなかったことをお姉さんが提案してくれて、ホッとする。

ディナーが忙しい日の蓮は、帰ったらすぐにソファーに倒れ込んで、何を言ってもそのまま寝てしまうから。


「ありがとう。お父さんは大丈夫?」


「うん、大丈夫よ。私も着いてるし、忙しい時はお母さんも呼ぶから。お父さんにも話してある。蓮に話してくれる?」


「はい!」


きっと、私から話した方が蓮は休んでくれる。

それをお姉さんもわかってる。

自分が話せば、強がって休まないって。



そこへーーータイミングよく蓮が帰って来て、

お決まりのようにネクタイを緩めながら、ただいま。

おかえり、と返す私の頭を撫でたあとに、コーヒー、と言ってカウンターの椅子に腰を下ろす。


「あのね……お義父さんとお姉さんがしばらく、夜も店に立ってくれるって言ってくれてるよ?」


お姉さんが淹れてくれたコーヒーを蓮の前に置いてから、伝えると。

梓は?と。


「私もしばらくは、ランチだけ」


「それなら……ディナーも休む。その代わり、俺が戻って来るまでは店にいろよ」


お姉さんを見て微笑むと、微笑み返してくれたお姉さんは、


あんたね……梓ちゃんが休まなかったら休まないの?


「梓が居なかったら、休まらない」


「なんで?変な子ね……」


「目の届く範囲に居てくれないと落ち着かないからだよ!」


もう言うことないわ、とお姉さんは溜め息抜き吐いた。


それは、私も同じ。

私が休む時も、一緒にじゃないと落ち着かない。

毎日、四六時中でも飽きることがない。

違うことをしていても、蓮が同じ空間に居るだけで安心する。



「ってことで今日はもう、二人で帰りなさい!」


「ありがとう。お願いします!」


帰るよ、と蓮の腕に触れると。

頼んだ、とお姉さんに言って、ふらっと立ち上がる。


今日は、いつもより辛そう……