「仁乃、俺、これ好き」


少食だからまだお腹もすいていないはずの壱が、案の定鶏のシロップ煮を箸で掴んで言った。


「知ってる」


私は呟く。それから少し黙ったあと。



「…お昼のお弁当、おいしかった?」



小さな声で聞くと、お弁当を食べていた壱は箸の動きを止めて、そっと視線を持ち上げて、ほんの少しだけ静かに微笑んで。



「クソまずだった」



そこまで言ってくれなくていい。

すぐにそう言おうと思ったけど、また涙が出そうになって、ぐ、とこらえる。



「仁乃のがおいしいよ」



お弁当に目を落とした壱が、追い打ちをかけるみたいに言ってくれるその言葉に、喜んでしまう私、最低すぎる。

嬉しいのか悲しいのか分からなくなって、私は机に肘をついて両手で顔を覆った。



「まだ泣いてんの?」



ちょっと呆れたように壱に言われて、私は首を横に振る。

涙はもう、止まってる。



「…お昼のお弁当箱、どうするの?」


またしても小さな声で聞くと。


「弁当箱…?あー、4限終わりで速攻返してきたけど」


そう言われて、ふ、と笑ってしまう。

せめて洗って返せよ。




「まじでこの鶏おいしい」



そして君の味覚は、ほんとに変だよ。