「万里加さんは、壱に気持ちなんてなかったって言った」
はは、と壱が乾いた笑い声をこぼすけど、もちろんその綺麗な顔に笑みなんてない。
「はは、じゃない。本当にそうなの」
とにかく壱から目を逸らさないように、壱の大きな瞳を見て震える声で聞けば。
冷たく、色を失くす瞳が伏せる。
「そうだよ全然なんにもない」
「そんなわけない」
「そんなわけある」
「壱は…人の気持ち、考える子だよ」
語気を強めて言ったら、壱は短く、笑いともため息をもつかない声をもらして。
「仁乃は昔から、俺を買いかぶりすぎ」
ひとり言みたいに、私なんかここにいないみたいに、呟いた。
「俺、本当に仁乃以外どうでもいいんだよ」
「そんなことない」
「あるの。仁乃、どうでもいいっていうのは、本当に本当にどうでもいいってことだよ」
そんなこと、ないでしょ。
「傷つけても泣かせてもどうでもいいってこと」
「嘘」
「嘘じゃない。山村がどうなってもよかった万里加さんがどうなってもよかった、本当にどうでもよかった。仁乃が俺のそばにいて笑ってるなら。俺は、そういう男」
壱の最後の言葉に重なるように、ぱし、と、乾いた音が鳴った。
静かな教室に、その音だけが。


