壱が分からないはずないんだ。
知ったら私が悲しんで泣くことくらい。
――『こうなった場合は仁乃に殺される可能性ありますって、壱くんにあらかじめ言われてたんだよ』
さっき万里加さんはそう言った。
それくらい私のこと、分かってる壱だ。
分かったうえで、私のことが好きで好きで仕方ない壱だ。
その壱が、なんで。
「仁乃は脳みそクソガキだけど、味覚だけは生意気で、コーヒーは絶対ブラックなんです。かわいいでしょ」
万里加さんが、前を向いたまま静かに言った。
「これ、あたしと壱くんがはじめてそういうことになって、さあじゃ今からって時に、壱くんがあたしに言った言葉ね」
私は両手のなかの黒い缶コーヒーをきゅ、と握った。
「なんの脈略もない言葉だったからちょっと拍子抜けしたけど…」
万里加さんは眉を下げて少し笑う。
「この子、自分が後悔すること知ってるんだなって思ったな、あの時」
懐かしそうに万里加さんが少しだけ細めた猫目のなかには、私の知らない壱がいる。


