最後は玄関口で正座して三つ指ついて理沙子にありがとうと伝えたら、理沙子ははいはい、と苦笑いをして帰っていった。
私の部屋から顔だけ出してこっちを見ていたらしいママが、ゾンビを見るような顔で私の泣き顔を観察するからさっさと部屋から追い出す。
涙はあいかわらず、さらさら流れた。
ぐわんぐわん内側から揺れるような身体をベッドに埋めこんで、アラームもかけずに眠った。
それは意外にも深く安らかな眠りで、私はどれくらいぶりだろう、壱の夢を見なかった。
目覚めた時の、かりそめの安堵と、かりそめの喪失を、たぶん私は一生忘れないと思った。
眠気眼で見たスマホの画面には、壱からの鬼電の履歴。
それは全部今朝のもので、昨日の夜の壱からの着信はひとつもなかった。
もし今朝いつもどおりに私が起きて、何事もなかったようにいつもどおりドアの前で「おはよう」と言って笑えば、壱はまたそれに付き合ってくれたんだろうか。
今までずっと、そうだったみたいに。


