「…万里加さん?」

「んー」

「なにそれどっち」

「うん」


「…バカじゃん」




壱の下に横たわったままの私がそう吐き捨てても、見上げた壱にもう動揺はなくて。


瞳は動かず、私を見下ろしていた。





こうなることさえ分かってたみたいな曇りない綺麗な、すぐ目の前にある壱の顔を、殴ろうと思えば殴れた。


だけどそうせず、ただ黙って壱の胸に両手を添えてほんの少し力をこめれば、壱は容易く私から少し距離をとる。



壱は昔から、私の嫌がることは絶対にしない。



私と壱のあいだに生まれた致命的な隙間からベッドを降りて、私はそのまま部屋を出た。






壱は私を、追いかけることも引きとめることもしなかった。