壱になんて言われるんだろう、壱になんて言わせてしまうんだろう、そんなことをぐるぐる考えて混乱していたら壱は。
「もう一回言って」
そんなバカなことを言う。
「い、言わない!」
「なんで。もう一回言って」
「言わない!!」
だって本当は言ったらいけなかったんだ、あんな言葉。
だって私が待ってる限り、壱は誰にも、うんって言えない。
はじまるかもしれない誰かと壱の可能性は、私がいる限りずっとゼロなんだ。
きっとそれは、うぬぼれじゃないから。
だから言ったらいけなかったのに。
「…壱、行かなきゃ」
「ちょっとは妬いてくれるようになった?」
「いつものベンチにいる」
「止めてくれてもいいんだよ」
「先に食べてる」
全然噛み合わない会話を人ごみの渡り廊下で繰り広げて、私たちはしばし別れた。


