なんで笑うの?


そう聞こうとした時。




「仁乃が泣いてたから。あの時」




壱はなんでもないように、だけどとても優しい声で。


泣いてたの?私、あの時。


思い出そうとするけど、思い出せない。


幼い壱の、怒った横顔しか。



私さえ忘れた私のことを、壱は覚えてる。



「それが許せなかっただけだよ」



その声が、さっき痛んだ心臓のまんなかにじんわり、滲んでいった。




「山村、あんなに立派になって…。殺さずに済んでよかった」



本当にね。


笑えるはずなのに、染みて痛くて、笑えなかった。