こんな壱、見たことない。
…分かってない、私、なにも。
ただ、ただ…壱に、怒らないでほしくて。
きっと容易く、触れた。
キスされた時のあのお昼休みも。
最初に触れたのは、私なんだ。
…私、なんでこんなに、子供なんだろう…。
心臓が痛い。
それは絶望にも似た気持ちだから。
壱の顔を、見られない。
――『…ただ、頑張ってんのは今も相原だけなんかなって』
山村くんの言葉を聞いた時と、同じような心臓への衝撃が、痛い。
そんな私の痛みさえ知ってるみたいな顔で、壱は短くため息をつき私の手を握って歩きだす。
今度は、ゆっくり。
歩く力もないような私の歩調に、合わせるように。
空はいつかの空と同じ夕焼け。
いつかと同じ帰り道、同じ手の繋ぎ方。
手は、あたたかい。
痛みとぬくもりが、私のなかでせめぎあっていた。


