小学校の校庭。


壱に馬乗りされている、その男の子の顔はぼやけてよく見えないけど、名前は確か山村拓馬。クラスは隣の5年2組。


小学生の壱はいつもの冷たい目で見下ろした山村拓馬の胸倉をつかみ、容赦なく顔面を殴っている。


壱の左目の下がひく、と動くのを見て、これやばいよ半殺しにしちゃうやつだよ、と思って慌てて、


「壱!」


大きな声で叫んで怒ったら、壱は山村拓馬を殴る右手を止めた。


校庭に響く山村拓馬の嗚咽。

胸倉を掴んでいた左手を壱がぱっと離すと、山村拓馬は校庭のアスファルトの上にぺしゃっと打ち捨てられて粗大ごみみたいになった。


騒然とする周囲をよそに壱はけろっとした顔で私の前までやってきて、山村拓馬を殴って捨てた手で、私の手をぎゅっと握って歩きだす。


その手の熱さが、夢では思い出せない。