生きていると不思議なことばかりだ。熱い思いを閉じ込めて進めなくなったり、迷いや戸惑いを誤魔化し続けて胸の中がパンクしたり、それでも自分を諦めたくないと歩いていく。

夕焼けの差す教室、高鳴っていく胸を押さえ、緊張から何度も深呼吸をしながら雪(ゆき)は人を待つ。制服のスカートが開け放たれた窓から入り込んだ風で揺れた。

「雪ちゃん、こんなところに呼び出してどうしたの?」

その声を聞くだけで、雪の胸がまたギュッと愛しい音を立てる。そして、恋の始まりのように夢を見てしまうのだ。

雪が振り向けば、男子にしては低めの身長の男子生徒が立っていた。その顔はどこか緊張しているようだ。

「前(ぜん)くん、来てくれてありがとう。伝えたいことがあって……」

雪はそう言ってから長い髪を一つに結ぶ。踊るのに邪魔だからだ。

「私、うまくきっと口では伝えられないから、体で伝えるね」

雪はそう言い、スマホから音楽をセットする。これからまるで時間を全て止めてしまうかのような、魔法をかけているかのような、魅力的な瞬間が生まれるのだ。