お母さん仕こみのツネリ技。
「んもう。なに、ふざけてんのよぅ。(のぞみ)くんたら」
 顔だけニコニコのあたしの攻撃から、
「ジョーダン、ジョーダン」
 顔をしかめて、声だけ笑ってゾンビが逃げた。
 今度この手のことを冗談にしたら、そのきれいにみがいたローファー、無事じゃすまないと思えよ。
「で、どっち? 本当に本屋さんでいいの?」
 なんとなく歩きだしながら、まだこそこそ背中をなでているゾンビに確認。
「いや、おれよりさ、一色(いっしき)くんの予定でいいよ。なんか、買い物あるんだろ?」
「あら。わたしは別に……。おじゃまじゃなかったら、ごいっしょしたいわ」
「…………」
 ゾンビの標準語と、沙月(さつき)のお嬢様コトバ。
 どっちにも身体がかゆくなるあたしは、どうしたらいいの。
 主導権をいただいたと。
 そう思っていいわけ?

「じゃ、べつこ…」「そう? おれ今日は都庁行きたいと思ってたんだけど」
 別行動で、と言いかけたあたしにかぶってきたゾンビの声。
 と…ちょう?
「あ。それいい! 実はわたし、行ったことないんですぅ」
春加(はるか)は?」
「…………」
 聞かれたって、どうしろと?
 とちょうって都庁?
 聞いてないよ。なにそれ。
「それじゃ、都庁に行って富士山を見よー! ってことでいいですか? お嬢さんたち」
「きゃー」
 沙月がとびはねて拍手してる。
 なんか……。
 どう考えてもこういうの、ダサイっていうんじゃないの? 沙月さん。