『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-

 あたしは音楽はネット動画でたまに聴くくらいだし。
 習ったのもピアノだけ。
 好きなのはストリートピアノの配信者たちで、宿題の息抜きに5分くらい聴かせてもらえば幸せだから、楽器の音でとなりにいるひとの声が聞こえないなんてことがあるとは思わなかった。

 オケ部の演奏は文化祭で聴くし、ミュージシャンのライヴの様子はテレビの音楽番組で見たことがあるけど、実際にみんなが立ったまま、ぴょんぴょん飛び跳ねている現場に自分がまざるだなんて――…
「しーんじられない」
 カルチャーショック。

「なぁにぃ?」の形にタッチャンの口が開いた。
 もう演奏以外なにも聞こえないから、あたしはぷるぷる首を横にふるしかなくて。
 タッチャンは、わんこに待てっていうように手を空中で止めると、無責任にもあたしをひとり残して、ぴょんぴょん跳ねている人のなかを、かきわけかきわけどこかに消えた。
 とたんに心細くて背中を壁に押しつける。
 首を横にひねると、壁沿いには小さなテーブルがあって、そこが煙でもくもく霞んでいるのが見える。匂いもすごい。タバコだ。
 お父さんが吸わないからタバコは苦手。
 鼻をハンカチでふさいで前のほうをのぞいてみる。
 薄暗い店内に、パシパシ赤い光が飛ぶ状況にやっと目が慣れて。
 背伸びしてお客さんたちを観察。
 ただのかたまりに見えるのは、みんな黒い服を着ているせい。
 それでも所々にグレーのスーツ姿のお兄さんや、ふつうの白Tシャツの男の子もいて、みんながみんなトゲトゲツンツンのタッチャンみたいというわけじゃないらしい。