『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-

「なにが『よかった』んかなぁ。ばーさん、ボケとったとでも思ったか?」
「……う」
「まあ、なんにせよ、おれはよかったわ。涙、止まって。ん、よちよち」
 またそうやって、ひとのことをガキあつかいする。
 こんなやつが婚約者だぁ?
 考えるだけで、おぞましいわ。
 両腕でぎゅっと身体を抱いて、わざとらしくぶるぶる震えると、ゾンビはまた笑った。
 今度は小さく「はは」っと声をあげて。

 それきり、ふたりして黙って。
 ゾンビは目をつぶって天井を。
 あたしはゾンビの指を見ていた。
 こんなときでも見とれちゃう10人のこびとみたいな、不思議な指。
「ねぇ……。知っててここに来たの?」
「下宿するより、金がかからん」
「来ちゃったら、認めたことになる…とか、思わなかったの?」
「おめぇがその気にならなきゃ、どうしようもねえことやろ? だって」
 その気!?
 ひえぇぇぇ。
 部屋に流れるキシュキシュという乾いた金属音に背筋が震える。
 アンプに繋いでいない電子楽器は楽器じゃない。
 楽しいのは心の中ではそれが音楽に聞こえている本人だけだ。
 だからいま、楽しいのはゾンビだけ。
 あたしは一刻も早くこんなところからはおさらばしたいから。
「まさか! そっちはその気なんじゃないでしょうね」
 直球。
「ばか言え」
 自分はとうに話から逃げて、あたしの存在なんて無視するのかと思ったのに、ゾンビの返事は素早かった。