『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-

「なにひとりで百面相してるんや」
「え?」
 ダイニングスペースでゾンビがバーカウンターに茶器を並べていた。
「飲むやろ? ハチミツとジャム、どっちにする?」
「あ。ハチミツ」
 返事をしてから、水浴びをしたわんこのように首をぶんぶん。
 それどころじゃなーい。
「ちょっと! 聞こえたでしょ? 婚前交渉だよ? 婚前交渉!」
 ゾンビがポットからティーコージーをはずしながらニヤリと笑う。
「こだわるの、そこか? ――――えっち」
「……ぇ……」
 えっち、って……。
 いや、待て待て待て。
 そんなことに反応している場合じゃない気がする。
 こだわるのは、そこじゃないだろ…ってことよね、つまり。
「じゃあ、どこよ。聞こえたんでしょ?」
「あー」天井を見上げたゾンビが、わざとらしくポリポリと(ほほ)をかく。
「もしかして――わからんのか、許嫁(いいなずけ)
 うぐっ。
 唇をかんだあたしに気づいてゾンビがまたニヤリと笑った。
「教えてほしいひと、手を上げて」
「…………」
 うぐぐぐぐ。
 知りたい。くやしい。知りたい。
 メトロノームの針は左右にカチカチ揺れるけど。
 結局、教えてほしいと言えなくて。
 両手をにぎりしめたあたしに、ゾンビが肩をすくめる。
「だったら風のうわさや。気にするな」