(ちょっと!)
 リビングでけたたましくしゃべっている本家のふたりの伯母さんたちに廊下からちょっと頭を下げて。
 やっぱり行く。
「待ちなさい。どこ行くの!」
 廊下の突きあたりはあたしの部屋だ。
「メロン食うんやろ。ほれ、開けやぁ」
「…………」
 だれの家だと思ってるのかしら。
 ほんとにもう!
 強引なんだから。

「おーい。まだかぁ」
 ドアの外でゾンビが3度目の催促。
 うるさいなぁ。
「このくらい片づければ…いいかな」
 ぐるっと部屋を見回して。
 ぬいぐるみだの、雑誌だの、写真立てだの。
 今やすっかり物置き台と化しているピアノで目が止まる。
「うーん……」
 なんとなくうしろめたいのは、ドアの外にいる(やつ)のせいだ。
 カレシじゃないし。
 べつに男の子だから部屋に入れるのが恥ずかしいとかじゃなく。
 いやなのは、ゾンビだから。

 ゾンビが持ってきた大きな荷物は、ベッドと机だけだった。
『幽霊が出る』っておびえたくせに、そのほかはおばあちゃんの家具を使っているゾンビが、引越し屋さんが大汗をかくほど持ってきた黒い箱は、ぜんぶ楽器。

「おーい?」
 その、4度目の催促を聞いたら、突然むずむずっと対抗心がわいてきた。