学期末の大掃除。
 シスターのグレーの影が視界を横切ると、みんなして、てきぱき、てきぱき働いて。あとはダラーッ。
「ねえ、夏休み、どこか行く?」
 あたしに聞いても答えなんか毎年同じなのに。
「富山の別荘」
 答えてモップをバケツにどぼん。
 わしゅわしゅわしゅっと上下して、雑談拒否態勢。
春加(はるか)もかぁ。うちも相変わらず葉山の別荘よ」
「うちも相変わらず軽井沢」
「みんな、変わり映えしないわねぇ」
 あーあ。
 相変わらず相変わらずって、みんなため息をつくけど、それのどこが不満なのよ。

 あたしは見栄を張っているわけじゃなくて、めんどうだから行く先を“別荘”と言い換えているだけで、そこにしか行かないのは本当のことだ。
 みんなは本当の別荘じゃないの。
 わたしの言ってる“別荘”とはわけがちがうでしょ。
 なんなら、うちの子になる?
 相変わらずでも、休みに遊びに行ける場所があることがどれほど幸せか。

 うちはずっと盆暮れ正月は“お接待係”で。
 おばあちゃんをつれて富山に行って、お父さんは接待のお酒で酔っぱらうだけ。お母さんとあたしは恵子ちゃんとお運びさん。
 家族そろって遊びに出かけたことなんて一度もないんだからね。
 おばあちゃんとお母さんとあたし。
 あたしの長いお休みには3人で女子会はしたけど、お父さんが加わることはなかった。
 それをさみしがっていたのはお父さんで。
“本家の末っ子長男”という役を、黙々とこなしていたのも知ってる。
 だから、おばあちゃんが富山の本家のお墓に入って、今年から“お接待”は周忌だけになるって。
『加代子さん、長い間ありがとうございました』って。
 お父さんがお母さんに頭を下げたとき。
 ぽろぽろ泣きだしたお母さんにつられてあたしも涙がでそうになったのに。
 それに続いたのが『なので今年のお盆休みは、ちゃちゃっと墓参りして。あとはDVDをヤマほど借りて3人でオールナイトしよう!』ですもん。
 あたしもお母さんも一瞬で涙なんか乾いちゃった。サイテー。