Lesson1.寝る子は粗雑(そざつ)

 3月26日。くもり。
 おばあちゃんが――死んだ。
 たったの84歳で。
 キノコの妖精だから百歳までだって生きるがよ…って言ってたくせに。
 百歳まで、あたしがもう一回人生をやりなおせるくらい、まだ時間があったのに。
 知っているひとが死んじゃったのなんか初めてで、あたしは涙が止まらなかった。

 * * *

 だれかにティッシュを箱ごと渡されて、とりあえずお礼は言った。
 顔を上げるとそばにいたのは分家の岐阜のおばさんたちと、本家の富山の伯母さんたちで。
「ほらほら、鼻が真っ赤になってしもーとっぜ、春加(はるか)ちゃん」
 ティッシュをくれたのは富山の恵子伯母さん。
 本家三女で、末っ子長男のお父さんとは5歳ちがい。
 親族の会ではいつも、お母さんといっしょに働いている。
 お父さんが銀行員になれたのも、恵子ちゃんがおじいちゃんの酒蔵を継いでくれたからだって。
 酔っぱらうとお父さんはいつもぺこぺこ頭を下げる。
 ほかふたりの伯母さんたちは、今でもお父さんが(あと)を継がなかったことをうだうだ、ねちねち責めるけど。
 それは分家のおばさんたちも同じだ。

「泣いとる場合かね、春加ちゃん。あんた、本家の跡継ぎなんやで、しっかりせなかんよ」
「ほーや。えぇ婿(むこ)さんもらってまわな」

 こんなときまで本家とか跡取りとか。
 あたしには迷惑でしかない話を始めるのは、恵子ちゃん以外のおばちゃんず。
 あたしとお母さんにする話ときたら、お婿、お婿、そればかり。