「動画見てびっくりした。プロの筆捌きってすげーのな」


どこか楽しげに翔ちゃんが話し出す。


「ドライアイがなんとかって言ってたのは、たぶん職業病か。塾の前にいたのは奥寺と時間を合わせるため。締め切りなんてもの抱えてて、すげーなあいつ」


『皆さん!この人私の彼氏なんです!』って世界に向かって叫びたくなってしまう。なのに実際は胸がいっぱいで、彼の横顔をみつめるくらいしかできない。


「俺が言うのもあれだけど、奥寺が最近学校でよく笑うようになったのは、岡崎のおかげなんだろうな、ってなんとなく感じてたし」


「ね、その言葉ぜんぶ岡崎君に聞かせてあげてよ。彼きっと泣いちゃうよ」


「それは大袈裟でしょ」


「ううん、そんなことない。翔ちゃんの言葉で岡崎君のこれまで辛かったことの全てが、ひとつずつ報われる気がする」


お姉さんを失った悲しみもやるせなさも。大人社会でのしがらみも葛藤も。
うまくいかない恋愛も焦燥も。


まるで雨上がりの雲の切れ間から射す光に、じんわり暖められていくように。