「あの時……手を振り払ったりして、ほんとにごめんね」
彼を拒絶してしまったことを悔やまなかった日なんてない。
私が翔ちゃんを傷つけてしまうなんてことが、この世にあっていいはずがないのに。
「いいよそんなこと。なんであの時美緒が必死に岡崎のことを庇ったのか、今はわかるから」
翔ちゃんはゆっくり強く、私の手を握ってくれた。
「一緒に仕事してわかったんだろ?あいつのすごさっていうか、あいつがあの手で抱えてきたもののすごさが」
大好きな人の腕を思い切り振り払った理由と後悔。翔ちゃんは今、そのどっちもを理解しようと……許そうとしてくれてるんだ。
そう考えたら何も返事ができなくなった。でも翔ちゃんは、そんな気持ちに寄り添うように、少しだけ傘を傾けてくれた。
「漫画家にとって腕って商売道具だもんな。その腕であいつが作り上げてきたものを目の当たりにして、守らなきゃって思っただけなんだろ」
もう胸がいっぱいで、じーんとなって仕方ない。翔ちゃんの優しさで、今までの悲しみも苦しみも寂しさももどかしさも、すべてが浄化されていくみたいだった。
「あれ、違った?」
「違ってないよ。嬉しくて……今すごく嬉しすぎて」
翔ちゃんの穏やかな優しい声がすき。そっと頭をなでてくれるところが、好き。



