「あのね、わたしと華世ちゃんは偶然彼の正体を知っちゃったの」
「正体って……あいつやたら絵が上手かったけど、もしかして本物の漫画家なの?」
岡崎イコール橘之宮ちぇりこって、そんなことってあるんだろうか?
「もちろん本物だよ。だけど彼には……ちぇりこ先生には素性を言えない秘密があって」
小さな声で美緒が少しずつ話し出すのを、ただ黙って聞いた。
「でも世間は面白がってその素顔を暴こうとしてるの。秘密が洩れたら岡崎君は普通の高校生でいられなくなっちゃう、奥寺さんのそばにいられなくなっちゃう」
言葉をひとつずつ選びながら、必死に訴える美緒の言葉の続きを待った。
「それなのに私達の誤解を解くためにこれを撮影してくれたんだよ。だからお願い、今見たことは絶対秘密にして?」
今すぐ削除しなきゃと真剣な表情で呟いたその言葉は、まるで自分に言い聞かせてるみたいだった。
感極まったのか、美緒はもう涙目を通り越して指で目元を拭い始めていた。



