「ねーちゃんが死んじゃって、訳もわからないままちぇりこ稼業に追い立てられて、お箸も持てないくらいペンだこも悪化して」
うんうんと、声を出さずに続きを待つ。
「まだ力の加減がわからなかったんだ。慣れなくて肩は凝るし、そうなると頭痛どころか吐き気もするし。
ほんと何もかもに余裕がなかったから、とにかく必死だった」
「うん、なんとなくわかる」
岡崎君は基本まじめだもん。
きっと今の手は、痛め尽くした末に出来上がった完成形なんだろう。
「そんなことに誰かが気づいてくれるなんて思いもしないじゃん。だからすごく驚いてすごく嬉しかった」
岡崎君は夜空を見上げて幸せそうに微笑んだ。
「そしたらさ、なんか視界がぶわーっと開けて。彼女美人だし、気づいたらもう夢中になっちゃってた」
柔らかそうな茶色の髪を照れくさそうに掻くその顔がすごくすごく幸せそうで、こっちまで込み上げてくるものがあった。
「そっか、そうだったんだね」
胸が熱くなる。
素敵なドラマを見終えた感がすごい。泣いちゃいそうだよ。
彼女の存在があったから、きっと今の彼があるんだね。



