「でも中学の体育祭で奥寺さんとフォークダンスを踊ったときに言われたんだ。岡崎君は何を頑張ってるの?って」
「それ、どういう意味?」
奥寺さんの大人びた話し方を想像してみた。
「でしょ、意味わかんないよね。だから聞いたんだ。そしたら、この手は何かを守ろうと闘ってる人の手だよねって言うんだ。繋いでみてわかったって」
「うわ……」
何も言えなかった。何の前触れもなく、子猫みたいに小さく胸が震えた。
「彼女が言うには書道家のお爺ちゃんの手と似てたんだってさ。あれ?いつものツッコミは?ここ笑うとこでしょ?」
岡崎君は私がふざけるのを待っていたらしいけどその期待に応えることができなかった。
胸が高鳴って、翔ちゃんのことが好きだって気づいたとき目の前に虹が見えたことを思い出してしまった。
好きな人がいるってだけで、こんなにも世界は輝くんだってことをあの時知った。
彼は今きっと、恋が走り出した、心が跳ね上がった瞬間のことを話してくれているんだ。
じーんと胸に、心地よい痛みがしみていった。



