「指痛くない?バイト続けられそう?」
「全然大丈夫だよ。すごく楽しいし」
そう返事したけれど、本当は右手の中指が痛くて仕方なかったから、タコになったその部分を、そっと隠した。
「岡崎君は?プロの手ってどんなふうなの?」
美味しそうにブラックコーヒーを飲む横顔に声をかけた。
自分がほんの数日、ちょっと作業をしただけでこれだけヒリヒリするんだから、漫画家の指は超合金みたいだったりして。
「はい、こんなんです」
パーにした右手を、彼は私の前に差し出した。それは男の子にしては小さくて色白で、しかも指がすらりと長くてとても綺麗だった。
「わぁ……ハガネじゃない!」
「人をなんだと思ってんの?」
あまりの麗しさに見とれていたら、岡崎君は手を引っ込めてしまった。
「この手がずっとコンプレックスだったんだ。女みたいって冷やかされてさ」
「そうだったんだ」
羨ましいくらいキレイなのに、その人がそれに満足しているとは限らないんだね。
走り去る車のライトを彼が黙って眺めていたから、私も一緒にその景色を見ていた。



