「ねぇちょっと付き合ってよ。ジュース奢るからさ」
「うん、それは嬉しいけど」
すぐそばの自販機で何がいい?って。
そんな呑気にしてていいのかな。
もしかして岡崎君は塾終わりの時間を間違えてしまったんだろうか。
塾から出てくる生徒は中学生以下の小さい子ばかり。
私は何も聞けずに、非常階段に座る岡崎君のとなりで彼をみた。
どうぞ、って渡されたサイダーがひんやり冷たくて気持ちいい。
彼は自分のコーヒーをかたわらに置くと、まずは浴びるように目薬を差した。
ぱちぱち瞬きをして、うわぁしみるぅーって。まるで水を与えられて命をふきかえしたお花みたいに、満ち足りた表情を見せた。
なんか余裕あるよね。
もしかして、ふたりは付き合いはじめたの?なんて、思いきって聞いてみたかったけれど、脱力したその顔を見てこっちまで力が抜けてしまった。
ビルの隙間を抜ける風はぬるくて汗がなかなか引かない。
でも奢ってもらったサイダーを飲みながら見る華奢な月は、とてもキレイだった。



