「ところでさ、ほんとにこのバイトのこと宮辺に言わなくていいの?」


見たことのないペンにインクを含ませて、
私達を見もしないで迷いのない線を引く岡崎君。


「詳しく話せないから余計なこと言ったら逆に心配するかな?」


よくそんな繊細な線を引きながらおしゃべりできるね?なんて思わず感心してしまう。


あれ。さっきと使ってるペン違ってるじゃん。いったい手元に何種類のペンがあるの?


すごいな、これがプロのお仕事か。
なんか震える。


「平澤さん聞いてる?」

「あっ、はい。聞こえてます!」


私と華世ちゃんはお休みしているアシスタントさんが普段使っているデスクでそれぞれの作業をしているのだけれど、5日目を迎えた今日だって、プロの現場にいまだに慣れない。


だから一度にふたつのことができないの!
聞こえてるけど耳に入ってきません!


だって実日子さんが神と呼ぶ漫画家さんの下で、その作品が出来上がるお手伝いをしてるんだと思うとドキドキしちゃって。


しかも早い。
今日の先生のスピードは、いつにも増して恐ろしく早い!


それはこれに付いてこいという意味なんでしょ?私の個人的な話で作業遅れたらやだ。


慌てて髪を縛ったら、もう華世ちゃんは眼鏡をかけてマックをポチポチやっていた。
なんだよみんな、かっこいーんだから。