溺愛フレグランス



私は慌てて席を立ち、まるでバッグの中を確認するみたいにさりげなくエコバッグをキッチンの更に奥に追いやった。
でも、そんな私の挙動を朔太郎が見逃すはずがない。

「モフ男、何かあるぞ! 確かめてこい」

モフ男は訳も分からずに私の足元に飛んでくる。そして、私の足をクンクン嗅いでその場に寝転んだ。

「ほら、モフが何もないって。
っていうか、何もないの、最初から」

朔太郎はそうか~?なんて呟きながら、モフ男を抱っこするために私の近くへ来た。私の足元で寝転ぶモフ男を撫でながら、私の見ていない間にそっとエコバッグに手を伸ばす。

「何かあったんだけど?」

私が気付いた時は、朔太郎は真っ赤なバラの花束を手に持っていた。
私はポカンとして何も言葉が出てこない。
意地悪に目を細めた朔太郎は、そんな私を横目で見ながらその花束をゴミ箱に捨てた。

「朔、やめて、バラの花束に罪はないんだからね」

私はすぐにゴミ箱からその花束を取り出した。
そして、朔太郎の前でそのバラを花瓶に生け、キッチンのカウンターにさりげなく置いた。