「ごめんね、友和さんと会ってた。
駅前のカフェでお茶しただけ」
私はそう言った途端、友和さんとのキスを思い出してしまった。
すぐに朔太郎から目を逸らす。
別に悪い事はしてないんだけれど。
「うわ、最悪…」
朔太郎はモフ男を抱いたまま、私の顔を窺っている。
そんな風に見つめられると、何だか動きがぎこちなくなってしまう。
自分の顔に友和さんとキスをしましたって書いてあるんじゃないかと、急に心配になった。
「で、ちゃんと聞けた? 何をしてるかとか」
私はやっと朔太郎の方に目を向ける。そして、バッグの中から名刺を取り出そうとして、やっぱり止めた。
名刺を渡したら、朔太郎の事だから友和さんの何から何まで調べ尽くしてしまうだろう。
それは阻止したい。そんな形で友和さんのあれこれを知りたくなかった。
「名刺を見せてもらった」
「その名刺は?」
「もらったんだけど、どこかで落としたみたい。
さっきから探してるんだけど、どこにもない」
朔太郎は訝しい目で私を見てる。
「バッグの中にあるんじゃないの?」
朔太郎はキッチンの隅に置いてある私のバッグに目を向ける。
私はヤバイと思った。そこには、大きめのエコバッグに入ったバラの花束が置いてあったから。



