溺愛フレグランス



そういう事があった三日後、その日は出勤の日だった。
あの日以来、朔太郎は一度も我が家に来ていない。その朔太郎のささやかな抵抗は、早速、私の心を乱している。
そして、職場ではチーフの村井さんが朔太郎との飲み会の日程を決めていた。

「晴美ちゃん、悪いけど、幼なじみ君に今週の土曜日でいいか聞いてくれない?」

仕事上、村井さんは優しくない。ズバッと物を言うスタンスは周りの人間を震え上がらせる。でも、仕事から離れると少しは優しい。だけど、それは自分の思い通りになった時の話だけれど。
だから、こういう風に村井さんに頼まれたら、すぐに朔太郎に連絡をしなければならない。
私は、朔太郎のラインに村井さんに言われた事をそのまま送信した。

“その日でOK”

朔太郎からすぐに返信があった。

“それと、今日の夕方、モフ男を散歩に連れて行くから”

朔太郎のその言葉に私はホッとした。
朔太郎は別に私を避けているわけじゃない。
その事が分かったせいか、私はすこぶる機嫌がよくなった。村井さんのしつこい朔太郎に関しての質問にも、笑顔で応じられるほど。
朔太郎の笑顔は私にとって空気のようなものなのかもしれない。
今までは当たり前過ぎて何も気付かなかったけれど、今ならはっきりと分かる。
だって、朔太郎から連絡がなかったこの三日間は、月の出ない夜のようだったから。