ドライヤーで髪を乾かし、キッチンで冷たい水を飲んでから自分の部屋へ戻った。でも、ドアを開けると、そこに朔太郎はいない。
「朔?」
急に寂しくなった私は、部屋のクローゼットを開けたりベッドの下を覗いたり、いたずら好きな朔太郎が私を驚かそうとして隠れていそうな場所を隈なく探した。
すると、綺麗に整えられたベッドの上に、水色の紙切れが置いてある。朔太郎は、私がいない間に帰っていた。
“晴美、今日はごめん
ちょっと言い過ぎた
友和さんに好きなだけ電話してもいいよ
本当はいやだけど”
朔太郎の字は綺麗で読みやすい。
そんな朔太郎の字が、子供の頃から大好きだった。
朔太郎は何も変わらない。私の事を大切に想う気持ちも、ストレートに感情をぶつけてくる性格も、朔太郎は子供のまま大人になった。
今夜はもう遅いから友和さんに電話はしないけれど、美人でも魅力的でもない私が、朔太郎と友和さんを心の中の天秤で計ってみたりする。
どっちもどっち、どちらにも傾かない、それは私の中の願望であり逃げでもあった。
さっきまで朔太郎が横になっていたベッドに寝転んで目を閉じる。
結婚という目標に向かう事に変わりはない私がするべきことは、まずは友和さんの事をよく知る事だと思う。
友和さんの事をちゃんと知ってから判断したい。
朔太郎の事はその後に考えよう。
疲れ果てた私はそう結論づけた途端、眠りの底に落ちていった。



