溺愛フレグランス



「あ、そうだった!」

センチメンタルな気分になっていたせいで、大切な用事を忘れるところだった。

「智也に朔太郎も、ちょっとだけ気配を消してもらっていい?」
「気配を消す? は? 意味が分かんないんだけど」

さっきまで黙っていた朔太郎が、不可解に目を細めて私を見る。
私は、ここ最近、マッチングアプリで知り合えた男性と、こうやって、ほぼ毎日スマホのビデオ通話を使ってお互いの日常を見せ合っている。
私の登録しているマッチングアプリは、結婚を真剣に考えている人を対象にしているせいで、色々な決め事が多い。
知り合えて、お互い気が合ってもすぐには会えない。
こうやって何度もやり取りを繰り返して、AIのお墨付きが出れば会う事ができる。
でも、由良ちゃんやその他大勢の会員は、真面目にAIの言う事を聞いていないらしい。
だって、内緒で会っても、そんなのどうにでもAIに報告できるから。
でも、私はちゃんと決まりは守る。
そんなお堅い性格のせいで、こんな風に朔太郎と飲んでいても、その時間になればちゃんと連絡を取らなきゃと思ってしまう。
だって、きっと、その人は私からの連絡を楽しみに待っていると、そう信じているから。