私はその朔太郎の独特の解釈についていけない。
でも、あの匂いという微妙なフレーズが、フレグランスに昇格できた事は良しとしよう。

「ねえ、朔って、いつからそんなに鼻がいいの?」
「鼻がいいのは晴美に限ってだけ。
いつからって言われれば、物心ついた頃かな。
俺は晴美の匂いが本当に大好きだった。
それは今も継続中だけどね」

私は笑うしかなかった。
そんな変態?朔太郎を愛おしいと思う私だって、変な奴に違いない。

洞窟の中の時間はまったりと過ぎていく。
この場所から、私達の新しい未来が始まる。
私はゆっくり立ち上がり、大きく背伸びをした。

「でも、結婚の前に片付けなきゃいけない事が山ほどある。
お互いの両親にちゃんと話す事と、あと、友和さんの事だって何だか無視はできないし」
「友和?」

私は肩をすくめて苦笑いをする。

「村井さんにお任せでいいんじゃないの?」

そう、私はこの間の出来事を、朔太郎に全て報告済みだった。
朔太郎はお腹を抱えて笑っていたけれど。

「そんなわけにはいかないよ…
友和さんが村井さんに変な事をしないか心配だし」

朔太郎は笑うのを必死に堪えている。
心配するという言葉の意味が分からないみたいに。

「村井さんの心配? それとも友和の心配?」

私は怒ったように朔太郎を見る。

「村井さんに決まってるでしょ!」

今度は朔太郎が肩をすくめて笑った。
そうかな?なんて意地悪に目を輝かせて。