溺愛フレグランス



朔太郎の理解できるようで理解できないその話は、笑って受け流す事にした。
多分、言いたい事は、私の事が大好きだという事。
それは子供の頃から分かっている。
幼い頃からよく泣きそうな顔をして「俺より先に死なないで」と言ってたっけ。

「さっき、ちょっとだけ雨粒が落ちてきたんだ。
天気予報は晴れになってたけど海沿いの天気ってすぐに変わるから、日が昇ってみないと朝日が拝めるか全然分からない」

でも、さっきより確実に夜の色合いが明るくなってきている。
もう日の出も間近に迫っているのが分かった。

「あの洞窟の入り口をちゃんと見てて。
俺達が最高に運がよければ、あの真ん中の水平線から太陽が昇ってくるから」
「…分かった」

私は急に緊張し始める。
朔太郎の腰に手を回して祈るように海を眺める。
空が薄っすらと明るくなるにつれて、海の様子がだんだん分かってきた。今日は波も立たない凪の日だ。風はそよそよと微風が吹いている。
そこから先は二人とも黙って海を見ていた。
海と空の境い目は、夜から朝に変わる神々しいほどのグラデーションに彩られ、息をする事も忘れてしまう。

「あ、陽が昇ってきた…」