溺愛フレグランス



私は岩場から立ち上がり、波打ち際の方へ歩いた。
結婚に焦っている自分が本当に嫌いだ。
友和さんの事といい、朔太郎の事といい、たくさんの人達に迷惑をかけてきた。
朔太郎にとって、私は重荷なのかもしれない。
きっと、好き過ぎるあまり放っておけない、ただそれだけの事。
愛している気持ちには変わりはないけれど…

まだ岩場にいる朔太郎を見ると、両手を広げて寝転がっている。
じっくり見てみると、眠っているようにも見えた。
私はあれこれ悩む自分が馬鹿らしくなった。
結婚をするもしないもその時に考えればいい。
バツイチの朔太郎には私の知らない覚悟が必要なのかもしれないし、その覚悟が持てないのなら、また今までどおり幼なじみに戻るだけ。
私は寄せては返す波をぼんやり見ていた。
結婚に縛られないで、朔太郎との恋人ごっこを楽しみたい。
そして、私はピクリとも動かない朔太郎の傍に戻ってみる。

「朔? 寝てるの?」

朔太郎は片目だけを開けて私を見た。

「やっと戻ってきた…」

朔太郎は体を起こし、私を優しく抱きしめる。

「頼むからさ…
俺の前から居なくならないで…」

少し拗ねた様子の朔太郎は、子供の頃と何も変わらない。

「俺は…
幼なじみの垣根を越えてから、晴美なしじゃダメな人間になってきてる。
だから、俺の前から居なくならないで…
こんなちょっとの時間でも無理なんだからさ…」

ごつごつした岩場のベンチで、私達は二回目のキスをする。
誰もいない海は、寄せては返す波の音だけが優しく響く。
私は、物心がついた頃から、朔太郎の全てを受け入れている。
どんな朔太郎も愛している。
きっと、それは朔太郎も同じ…