その海は砂浜をもっと奥に行くと岩場があり、崖の斜面に面した場所には大きな洞窟があった。
天候と波の状態と風の向きがピタリと合えば、その洞窟の中から朝日が見える。
まるで、洞窟の穴の形が偶然に生み出されたフレームのようで、太陽がゆっくりと昇る様子は絶景らしい。
でも、その界隈は潮の流れが速く、特に朝方は海が荒れる事が多かった。
だから、その絶景を拝む事ができた人は、幸運の女神が付いているとしか思えない。
もちろん、私も朔太郎もその絶景を見た事がない。
十年前の若くて元気な頃、私と朔太郎はその海まで何度かドライブをした。
中々、朝方には行けず、昼間や夕方の景色を堪能するだけだった。
そして、その度に、二人はいつも約束した。
「いつか、絶対、ここからの日の出を見ようね」と。
私は、そんな風に、二人で交わした約束を完全に忘れていた。
隣で涼しい顔で運転している朔太郎を見ると、何だか泣きたくなる。



