由良ちゃんはそう言うと、風のように居なくなった。
多分、きっと、村井さんのいる控室へ向かっている。
でも、私は、村井さんの反応が怖かった。
どういうわけか、村井さんは、私の事をお嬢様で何も知らない純粋な女性だと思っている。そんな私が、村井さんの知らないところでマッチングアプリを使って結婚相手を探していたなんて、村井さんにとっては衝撃が大き過ぎる。
私は、誰もいない給湯室で、しゃがみ込んで途方に暮れた。
市役所の戸籍住民課の窓口で、流血事件が起こらない事を必死に祈るしかない。
それでも、私は頭の中から様々な恐怖を追い払い、勇気を振り絞って立ち上がるしかなかった。
自分で蒔いた種は自分で解決するほかない。
そう自分に言い聞かせて、ガクガク震える足を引きずりながら窓口へ向かった。
「あの、村井さんを見ませんでした?」
まだ世間はお昼時間のため、窓口の人の数は少ない。私は顔見知りの職員さんを見つけ、そう聞いてみた。
「村井さん? あ、さっき、由良ちゃんと外へ出て行ったと思う。
チラッと見ただけだから確信はないけど」
「ありがとうございます」



