「あの店で誰かに会っただろ?」
「誰か?」
「そう」
私は小さく深呼吸をして冷静になるよう努力した。
「あ、智也だ」
「そうだよ。
今頃思い出すなんて、智也、可愛そう」
私はあの時の智也の顔を思い出す。
「智也が朔に連絡したの?」
朔太郎は肩をすくめながらうんうんと二回頷いた。
「智也が、眼帯姿の哀れな晴美ちゃんが結婚詐欺師に引っかかってるって」
「結婚詐欺師?」
私はもう一度冷静に考える。
そうだ、あの時、結婚を前提にとかそんな事を友和さんが言っていた。
「俺はすぐに友和の嘘つき野郎だって分かったよ。
つうか、その前に、何でそんな眼帯姿の哀れな状態なのに出かけるんだ?
ケガ人がウロウロしちゃダメだろ」
「もう、何度も哀れ哀れって言わないでよ…」
私は何だか切なくて涙が出てきた。
朔太郎の毒舌な言葉がしんみり心に沁みてくる。
だって、朔太郎が来てくれなかったら、今頃、私はどうなっていたのか分からない。
今日は祝日で天気が良くて、皆、楽しそうに道を歩いている。
そんな中、私は人生最大のドツボに嵌まっていた。



