「友和さん、私、この人と結婚します…
本当はそれを伝えるために、今日会いに来ました。
でも、ケガをした時、友和さんがすばやく処置をしてくれた事には、本当に感謝しています。
今まで本当にありがとうございました…
この左目の事はもう気にしないでくださいね。
さようなら…」
私は深々と頭を下げた。そして、隣に立つ朔太郎の手を握りゆっくりと後ずさる。
内心は猛スピードで逃げたかったけれど、そこはグッと我慢をして大人の行動を心掛けた。
でも、友和さんはそれでは済まない。
「晴美ちゃん…
その人との結婚の話は、晴美ちゃんが僕と別れたいがために考えた噓だって分かってるよ。
今日はこれでさよならにするけど、また、日を改めて連絡する。
その時、もう一度ちゃんと話し合おう」
私は苦し紛れに微笑んだ。
うんともすんとも言わずただ手を振った。
明日以降の事なんか今はどうでもいい。とにかく今日という日を早く終わらせたかった。
何よりも一秒でも早く友和さんと離れたい。
私と朔太郎は、こちらを見つめ続ける友和さんを後にして人混みに紛れる。しばらく無言でひたすら歩いた。駅とは反対方向へ、人混みに流されるまま。
すると、朔太郎が急に後ろを振り向いて爪先立って遠くを見始めた。



